年金商売

大昔に北海道へ旅をしたとき、1泊2500円(現在は3000円)のゲストハウスにお世話になった。飛行機代がLCCといえどかさみ、現地での交通費や食費もそれなりのものだったので個室が無いベッドひとつの宿とはいえこの値段で泊まれるのはありがたかった。

 

今ではコロナ禍とそれに伴う鎖国で全国的に宿の相場が素人目にも持続不可能だと分かるほどボコボコに値崩れを起こしていて、京都の駅前1.1等地のちゃんとしたビジネスホテルが1泊3000円、もう1000円ちょっと出せば朝食バイキングやトイレと分離したまともな風呂がつくくらいまで落ちたが当時はコロナ前、いかに地代が安いとはいえ破格であった。

しっかしまあ、きれいにする場所の風呂と、汚いものを出す場所のトイレをくっつけてしまえと考えた人の思考回路を覗いてみたいものだ。水回りの集約でコスト削減にはなるだろうけども......

 

ほぼノルマと化したユニットバス叩きはともかく、その上無料の朝食(セルフ)で高そうな大瓶の蜂蜜をたっぷりとパンに塗って食べることが出来たし、トイレと風呂が別だった。その上でオーナーのおじちゃんに飛行機が飛ばなかった故の延泊などで色々とよくしてもらえた。それに、元が一軒家なのでちゃんとトイレと風呂が独立していた。

 

ここまで好条件の宿がどうやって成り立っていた(いる)かというと、やはりオーナーがお金に困っていないからだろう。ローンの返済の必要もなく、宿泊者との交流をライフワークとしつつ多少の生活費の足しになれば良いのであればその分我々がお値段以上のサービスを受け取れる。

こうすると、店の稼ぎから地代と人一人、あるいは家族の生活費を丸ごと捻出しなければならない商売に対して優位である。当地は高齢化のなかなか進んだ場所、ここ以外にも似たような条件で自営業をしている所は山ほどあるだろう。

 

しかし逆にこれは、金と店舗を借りて小規模なビジネスを興そうとしてもコストを一定程度踏み倒した人たちと競わなければならないことを意味する。これは中々に厳しい。何かの理由で年金がじゅうぶんに貰えていて貯蓄もあるなら、年金をつぎ込むことで持続的な出血サービスまで出来てしまう。個人商店の規模でこれをされては太刀打ちなど到底できない。

 

人は易きに流れるというが、人は安きにも流れるもので客側としては当然年金割引の効いている方を選ぶ。若者の起業を支援する補助金も探せばあるのだろうが、お上から無い金を引きずり下ろす手間も考えれば厳しく、高齢者しか起業できないやや夢に欠ける世情になってしまうのだろうか。