傷口の乾燥剤

少し前から、足の親指の爪の横で細菌感染でもやっちまったのかじくじくとして汁が出るようになった。その汁は黄色い膿らしい色はしていないが、個人でグラム染色して顕微鏡をのぞけるような環境は整えていないのでなんとなく確信が持てない。どうやら2万円も出せば400倍で見える顕微鏡を買えるようだが買わない。管理が面倒だし。

 

さて、汁を抜いては洗って拭いて過ごしていたのだが、家にひきこもるステイホームの生活をしていてさえ負荷がかかる部位、どうにも治らないままでいた。ここ数年怪我らしい怪我はしていない、テニス部にいた時に股間にボールが直撃して痛かったくらいなので自室の薬箱にも怪我関係のものはなく、とりあえずどうしようかと悩んでいた。

 

外傷治療の定番、つまりは怪我をした時の2022年の標準治療は水道水で洗った上で専用の覆い(キズパワーパッドの強化版みたいなの)をかける湿潤療法なのだが、足指の奥まったところだけをピンポイントで保護するのは難しいし足が湿気っていると床を汚しかねない。皮膚科に出向くのも面倒だ。

 

そこで昨日、リビングの薬箱に消毒の粉薬があったのを思い出して使った。正直なところこの種の薬は医療者からは嫌われてさえいるのだが、家庭薬として十何年と使ってきて、傷口を痛みなく干して(あるいは焼いて)扱いやすくなる効果があることを知っているので使用にためらいはない。

 

湿潤療法を受容する前の自分はこれを傷の治りをよくする薬だと思って使っていたが、自分自身に対する効果は今思えば明らかではない。なぜなら傷の半分だけ粉を振ってもう半分は放置するとか、2つの傷の片方だけに振るとかの対照実験をやっていないからだ。

 

近世ヨーロッパの偽薬に斬ったり突かれたりした武器に軟膏を塗るとよい武器軟膏というものがある。これは実際に、傷口に塗る傷薬より傷の治りを早くしたそうだ。というのも当時の傷口に塗る薬が今考えるととんでもないもので、それよりは傷を放っておく方が良かったのだという。対照実験の重要性が分かる話である。

 

傷を消毒して乾かす薬は治癒によくないし、感染もむしろ起こしやすくなるという話さえあるが、なにぶん傷を干すと水分に困らされることはなくなるのでこれからも適宜使っていこうと思う。